子育て仲間と、シネマ・ジャック&ベティに行って「39窃盗団」を見ました。

  ダウン症者である監督の実弟と、もう一人の実弟を主人公に、障がい者、特に発達障がい者を取り巻くシビアな状況を描いている異色作です。

 こう書くと、見るのがしんどかったり、お涙ちょうだいの映画では?と思われるかも知れませんが、随所に笑いを取りこみ、カラッと描いているからこそ、ズシっと来ます。

 自分が深くかかわらざるを得ない身内であるという立場があってでしょう。きれいごとではない描き方です。
 タイトルの39はありがとうのサンキューも絡めてはいますが、 1 心神喪失者の行為は、罰しない。    2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。という刑法39条の事。

 冒頭、逮捕されて写真を撮られる弟の姿から映画は始まります。にやけていて、撮影のために右向け、左を向けといった指示が入らないヒロシ。発達障がいなのですが、刑務官にはなめているとしか見られず、暴力を振るわれます。

 このヒロシ、振り込め詐欺の主犯であるケンジにいいように使われて、時として暴力もふるわれているのに、ケンジさんはいい人だと信じてます。  ヒロシが兄ぃと呼んでいるダウン症の兄キヨタカはヒロシがムショにいる間、ばーちゃんと暮らしていたのですが、そのばーちゃんが死んでいたのにも気付かない。ふたりの両親はどうやらふたりを捨てて、ばーちゃんが世話をしていたようですが、電気も止められる程の極貧生活。

 ケンジは親切ごかしを言って権利証やら実印を持って来させます。そして、ヒロシの兄が障がい者と気付くと、障がい年金受け取ってやる、手続きしてやると、いかにも「親切そうに」言います。

 気付くと、何もかもケンジに奪われ、ひまわり級(個別支援学級)で一緒だった和代のアパートに転がり込みます。義父に売春を強いられているらしい和代ですが、屈託なく兄弟を受け入れ、花屋になりたいという夢を持っています。が、母と再婚相手の義父から、おまえはバカ、なんかいなくてもいい存在なんだと言われ続けている事が伺えます。

 ヒロシのレベルですと、障がい手帳など、福祉的な援助があってしかるべきだと思うのですが、和代と違って、自らをバカじゃない!と言うヒロシは福祉的援助を受けたがらないため、アルバイトで入った倉庫で「手帳があればなぁ」と言われてしまいます。

 で、39条という言葉を持ち出したのは悪党のケンジ。おまえの兄さんは何やっても捕まらないよ・・・で始めたのが窃盗団。明るくふるまっていても、客とHして、時として殴るけるの暴力も受ける和代は逃げたい。3人で空き巣をして生きて行こうとするものの、トンチンカンな事ばかり。

 そこへ認知症らしいご老人金山さんも加わり、どうやら彼は過去錠前破りの名人だった様子で、窃盗団の様相を呈してい行きます。

 しかし、金山さんの言動から、住民に不法侵入に気付かれ、和代は捜索願が出ていると引きもどされ、ヒロシとキヨタカはボロボロになってさまよいます。途中で、「障害者だからって甘えるんじゃねぇ」と理不尽な暴力も受けたりします。

 冷え凍える中、橋の下でうずくまるヒロシを抱きしめて、キヨタカがやさしくなぜるシーンが切ないです。

 見ていて、これって、元議員の山本譲司さんが、秘書飛ばしで服役中に見た事を書いた「獄窓記」、その後に書いた「累犯障害者」を思い出すぞ、と思ったら、彼自身がコメントされていました。





 社会に受け皿がない障がい者が犯罪を重ねる、ムショとシャバを行ったり来たりするしかないし、しばしば悪党の食い物にされているという現状を教えてくれた本ですが、身よりのないヒロシとキヨタカは、ケンジに持てるものを奪われ社会の底辺に押し込まれ、特にパッと見では障がいがあるとわからない発達障がいのヒロシの方が、自らが求めない限り、セーフティネットから漏れて、悲惨です。

 本当に切ない内容なのですが、救いは、ヒロシもマイペースのキヨタカも、和代も、性善説なところ(だからこそ、騙されもするのですが)。決して、ステレオタイプな「知的障がい者=純粋」ではないのは、泥棒行脚をしてしまうような面がある事を見ても分かりますが、でも、体を売っていても、和代は心まで失っていないし、ヒロシとキヨタカもしかるべき援助があったら、きっと心あたたかな生活をおくれているだろうと思わせるキャラクターです。

 多分、彼らをだまして美味しい汁を吸っていると思い込んでいるケンジの方が心はずっと不幸だと思われて来ます。

 よく、難しい話を簡単に話す人が賢い人と言いますね。同様に、つらい話を明るく描くのが良い映画だと思います。

 見て良かった!

 メジャーな作品ではありませんが、もしお近くで上映される機会がありましたら、一人でも多くの方に見ていただきたいと思いました。

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