フィギュアスケートの中国杯。6分間練習の時に、不運な衝突事故が起こりました。

 羽生選手と、中国のハンヤン選手(エンカン選手という呼び方をされていますが、私はハンヤン)が激突。羽生選手はしばらく起き上がれず、起きたら、顎のあたりが切れて血が流れていました。白い肌に真っ赤な血、痛々しい。そして、羽生選手よりは早く起き上がったので、ケガは軽いのかと思ったハンヤン選手は、しばらくして、リンクサイドに倒れ込んでしまいました。

 この時点で、二人の欠場はやむを得ないと思いました。恐らく、多くの現地、テレビ、ライスト観戦者がそう思ったと思います。
 当初、ハンヤン選手は自国開催にもかかわらず、棄権との事で、少しだけホッとしたのもつかの間、何と、羽生選手がリンクに上がり練習再開。そのうちにハンヤン選手も棄権を取りやめて出場との事。

 この間、Twitter上では、やめて〜の声が多数上がりました。

 この試合を棄権するという事は、グランプリファイナルへの出場の権利をほぼ手放すことを意味します。でも、長い目で見たら、頭部強打の後、検査も治療もしないで、回転をはじめとする激しい運動をするリスクを冒すより、棄権する勇気をと、みんな願っていたと思います。

 過去の日記にも書きましたが、我が家の長男は卒業旅行の帰り道、降雪に足を取られて転倒。失神、救急搬送されて、即CT検査。そこから、友人たちに支えられて、真夜中に帰宅したという経験があります。CTで異常は認められないし、深夜で入院して欲しくは無かったらしい先方の事情もあっての帰宅でしたが、長男に代わって事情を説明してくれた友だちによると「とにかく明日、医療機関へと念を押された」との事でした。

 長男は転倒前後の記憶をすっかり喪失していました。電話をかけてきたと思うと、数分して、またかけてきて「今、頭がはっきりして来たからいうけど」を何度も繰り返すのです。高速バスで帰るところを、他のお客さんの迷惑になるから、とバスを逃したために、友人たちの分も併せて新幹線代を送金しなくてはになったのですが、送金手続きをした後に、そのことを告げても、最早ATMの操作方法も分からなくなっていました。幸いに友人たちに電話を替わって貰って、何とかお金をおろして帰宅出来たのですが、あとで見たら、何と、一括して相応の金額を下すことすらできず、一晩に手数料を千円近くも払っていました。それほど、判断力も何もかも落ちていたのです。このままだったらどうしよう?と本当に心痛な一晩でした。

 そして、翌日、医療機関で、2〜3日は絶対安静と言い渡されました。当時、長男は院試を控えていましたが、ドクターストップがかかって「公共交通での移動なんてとんでもない」と言われ、諦めさせました。幸いにこの時は現在勤めている会社から内定をもらえていたので、笑い話で済みましたが、そうではなかったら、どんな話になっていたやら・・・という試験でも、ストップせざるをえない、それくらいの事態だったのです(何と、本人は内定をもらったことすら覚えていませんでした)。

  単独で転倒しただけの長男でも、こんなに大変だったのに、ましてや高速での衝突という大きな負荷がかかっての転倒で、脳に影響がありそうな回転多数の競技に臨むとは・・・

  まだ若く、人生経験が浅い選手たちが出場したいと思ったのは、賞賛は出来ないですが、分からないでもないです。その闘志があってこそのトップスケーターだとは思うのですが、問題は、周囲に誰も止められる人がいなかったという事。

 今、勝つ事を優先し、長い人生を台無しにするかも知れない事を考えてやる大人はいなかったのでしょうか?

 しかも、情けないというか、腹立たしいのは、それを称賛する雰囲気に満ちた番組構成になっていた事。日本語は、不都合な事実を、美辞で覆い隠す傾向が強いですが、ハイリスクなケガをしても出場する選手たちに対して、感動、新しい歴史などなど、美辞麗句で称え、いい試合、男らしいと褒め称える解説者。アナクロニズムですね。

 戦前、日本が戦争に向かって突っ走って、美辞麗句やら勇ましい掛け声を使って、今勝てばいい!と若者の人生を台無しにしたのを思い起こします。

  闘魂だの男らしいだの、素晴らしいだの言って、辞退するという勇気こそが尊いという事にフタをしてしまうのは、戦争放棄より、イケイケドンドン、特攻精神こそ麗しいと持って行きたいのか・・・・ついついうがった見方をしてしまう程の解説者のハイテンションでした。スポーツを見ているというより、まるで興行系の格闘技のノリで、熱い言葉を聞けば聞くほど、心が凍てつきました。これは素晴らしい試合じゃなくて、危ない試合で、決して年少スケーターに真似して欲しくないし、ほかのスポーツ競技者にもやって欲しくないです。

  この手の、賛美の行きつく先を思うとぞっとします。

  既に、手放し賞賛のネットニュースなども出現しているようですが、選手の人生を大事にしない決断を称賛する事は、今後、同じような事例が起こりうる、最悪の場合、本人が棄権する勇気を奮い起こしても、それを認めない圧力が生じて来るのではと懸念しています。

  ドクターストップで、本人の希望がどうであれ、これ以上は危ないという線引きをする制度などをつくらないと、選手生命はおろか、選手を退いた後の人生の質も大幅に低下してしまいます。スケート連盟は、チケット売上等の利益を、こういう時に、本当の意味で選手を守るために使うべきです。

 マスコミには、今回の事を過剰に賛美しないで、批判すべき点はしっかり批判して欲しいです。良識ある報道を望みます。

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