となりのトトロ以来のアニメ作品が「キネマ旬報」の大賞を取ったと話題の作品、おなじみのシネマ・ジャック&ベティで上映中なので、行って来ました。

 もとはクラウドファンディングで制作され、限られた館でしか上映されないというじみ〜なイメージだったのが、SNSなどにより拡散というパターンは、昨年の大ヒット作品「君の名は。」が当初さほどの期待されなかったのに、SNSで絶賛されて大ヒットしたのと相通じるものがありますね。

 しかし、君の名は、がパラレルワールドの恋の話というSF的要素と、日本の伝承的なものをミックスしたファンタジーだったのと比べると、こちらは戦時中の軍港、呉と原爆投下をされる前の広島を舞台の、厳しい時代の現実を反映した作品で、味わいはかなり違います。

  先日のクローズアップ現代+で、どうしてこの作品がヒットしたのかというのを分析していましたが、深刻な日常生活の中でも、笑える場面はあった事などを描き、また時代考証を丁寧に行って、失われた町並みを再現している事なども挙げられていました。
 
  そして、この作品の魅力は、やはり主人公すずの、今風に言えば天然キャラ。それに能年玲奈、改めのんさんのほわっとした声がマッチしているのです。

  天然キャラで今一つ要領は悪いけれど、絵を書くのが上手、物語を作るのも上手な広島に生まれたすず。見染められて、呉の軍港を見下ろす家にお嫁に行きますが、そのころから日本の戦況はどんどん悪くなっていき、空襲が始まり、すずも大事なもの、人を喪って行くのです。

 一つ気になったのは、水兵になったかつてのすずの幼なじみが、すずを訪ねてやってきた時に、だんなさんは「父が家にいない今は、自分が家長だから言うが、この家には泊めてあげられない、納屋に寝て欲しい」と言いながら、すずに「冷えるからあんかを持って行ってやりなさい」と言って、納屋に行かせて、主屋のカギをかけてしまった場面。

 う〜む、自分の妻が他の男性と間違いを犯すかも知れない状況に、どうして?と不思議でした。この辺り、原作を読むと、何かわかるのかも知れないと思いましたが、結局、すずは寄り添ってきた幼なじみを膝枕してあげて、ほっこりした一夜を過ごし、夫には「ゆっくり話をさせてくれてありがとう」と言うのでした。

 呉が軍港であるために、広島から呉へ移動すると、列車のブラインドを下ろしなさいと言われて、乗客は窓の外を見られなくなる場面がありましたが、これは横須賀でも同じだったとかつて聞かされました。

 軍港を見晴らす高い場所があり、湾に浮かぶ艦船・・・という眺めは横須賀生まれの私には既視感がありましたが、大きな違いは、呉は爆撃の目標とされてしまい、たくさんの悲劇が起きたのに、その呉と同じことが起こるだろうと、住宅地のあちこちに防空壕を掘って覚悟をしていた横須賀は、米軍が基地としてまるまる使うために、標的にされることはなかったという事です。

  その分、戦後の横須賀は東京を見据えた基地の町として生きざるを得なくなります。横須賀中央からベース(この言い方は横須賀独自なんだそうですね。私はベースという言葉を幼稚園の頃から使って来て、自分の語彙になっていますが、他地域の方には通じない呼称とも聞きます)に向かう大通りを、横に広がって闊歩する水兵の白い夏服姿、燕の尾のように垂れ下がった帽子の後ろのリボンを忘れられません(←毎度ながら、脱線すみません)。

 そんなことも思い出してしまう呉の風景描写でしたが、日ごと、暮らし向きが悪くなる中、すず達が様々な工夫をして乗り切ろうとする姿、一見きつくて意地悪そうに見える所謂出戻りの小姑をはじめとする婚家の人々との関係など、あの時だけではなく、今もありそうな光景などが、戦時中の物や食料不足の辛さ、苦しさの中でも、人々が質実に健気に暮らそうとしていた事を感じさせてくれます。

 呉の空襲が空振りも含めて、異様に数を増していく日々、ある時、呉に暮らすすずたちも目に飛び込むまぶしいものを感じます。原爆投下の日の朝の事でした。すずはここでも大事な人を喪います。

 ほっこりとして穏やかなすずですが、しかしながら、作品の最後の方では、別人のような怒りの声をあげます。どんな大義名分を言ってみても、戦争が残酷な愚行でしかない事が伝わって来ます。

 最終場面で、被爆地広島で母を失った孤児が登場します。直接的リアルさは避けていますが、火が嘗め尽くした場所でさまよう孤児の描写を見て、昨夏、お知り合いになった文さんの事を思い出しました。彼女は14歳、すべてを覚えていられる年齢に被爆し、弟さんや同僚、友人を失い、どんな気持ちだったでしょうか。私にはとても想像がつきません。

 孤児はすず夫妻と出会い、家に連れて帰られて行き、エンドロールへ繋がって行きますが、おだやかなコトリンゴの歌声と共に、迎えられた孤児が、そしてすず達が徐々に穏やかな日々を取り戻していく姿が描かれて、ほっとしました。

 原作者は以前読んだ、夕凪の街、桜の国の著者、広島出身のこうの文代さんですが、




 この作品の原作も読んでみたくなりました。




人気blogランキングへ