リレハンメルオリンピック直前の女子フィギュアスケートの史上最大のスキャンダルと言われた事件を、当事者であるトーニャ・ハーディング選手と、彼女を取り巻く人々の視点から描いた作品。
 
 我が家から直近(と言っても電車に乗らないと行けない)の映画館では上映されていないので、みなとみらいまで出ました。11時台と19時台という2回しか上映されていない事から、今見ないと、と思いまして、今春最高気温だと言われる中、せっせと出かけた次第。
  リレハンメルオリンピックの頃って、子育てが1番ヘビーな頃で、ノルディック複合での日本人選手の活躍は見たものの、フィギュアスケートはかろうじてニュース番組でのまとめを見られたかどうか。フィギュアスケーターで活躍する日本人選手の印象が薄かったのもあるし(とは言え、佐藤優香さんが出場され5位入賞されていたんですよね(^^ゞ)、そもそもテレビ前にじっくり座っていられない状態だったと思います。

  そんな私でも、ナンシー・ケリガンが何者かに襲われた事、後にトーニャ・ハーディングの名前が挙がった事などは覚えています。

  そして、これがアメリカ人か、ごり押しっぽいなぁと思った、靴ひもが切れたからやり直しさせてと求めるトーニャの姿。フィギュアスケートを殆ど見ていない当時の私から見て、技術云々以前に、何だか品のない人だなと。靴ひもトラブルはバンクーバーの織田さんも引っかかったけれど、彼はごねたりしませんでした。多くの日本人の心情としては、トーニャのように何が何でも思い通りにしようとする姿は「ごねている」と映り、想定外の不運が起きた時も、自己責任として受け入れる方が潔く映ります。とはいえ、それが過ぎると、自己責任の名のもとに、個人だけが不利を被ることになり、だからギスギスして来る、というところに今の日本の大きな問題の一つがあるように思われますが・・・。

  ネタバレになるから、あまり詳しく書けないけれど、アカデミー助演女優賞をこの作品で受けたという女優さんが演じるトーニャの母がすさまじいです。無教養な鬼母。今の日本でも言われている「庶民ではトップ選手になるのはよほどの才能が無い限り、経済的に無理」「裕福じゃないと出来ないスポーツ」であるフィギュアスケートですが、いわゆるプアホワイトで、禁煙のリンクで平気でタバコを吸う、コーチになって欲しい女性にずけずけものを言う、娘に対してもDVだのパワハラモラハラだの、全身で何かと闘ってるような女性。でも、結婚歴が5回以上もあるのですから、人を引き付けてしまうパワーもあるようで、コーチも結局、トーニャの指導をすることに・・・それだけ彼女のスケートが群を抜いていたという事なのでしょうね。

 世界で最初にトリプルアクセルを跳んだ女性は日本のレジェンド、伊藤みどりさんですが、作品中、何度か「アメリカ女性として最初にトリプルアクセルを跳ぶ」という言い回しが出てきます。トーニャはそれが出来た。しかし、母親との関係から逃げるようにして結婚した夫もDV(彼の言い分は違うようですが)。共依存みたいな関係で、関係が悪い時の方がむしろ好成績が出るトーニャ。全米NO.1になった後、スランプが訪れ、アルベールビルオリンピック(みどりさんが銀メダル獲得)では、ライバルのナンシー・ケリガンが銅メダル、トーニャは4位入賞。しかし、4位入賞ではスポンサーもつかないとウェイトレスをする彼女。

 再びのチャンスは4年に一度のオリンピックが、夏期とずらすために2年後にリレハンメルで開かれる、何としても代表になりたい!

 というのが事件のベースですが、この作品によると、トーニャは本気でナンシーを陥れたいと思ってはいなかったと・・・それが、どういうわけだか・・・というのが、トーニャに都合の良い話なのか、真実に近いのはは分かりません。

  フィギュアスケートの話という以上に、トーニャ程の才能を持ちながらも、教養を身につける余裕がない。コーチやその夫と言った常識のある支援者はいても、周囲に集まる人たちが良くなく、群を抜いた実力と努力をもってしても、報われないアメリカの貧富の格差を強く感じました。

  アメリカンドリームと言うけれど、プアホワイトとして生まれたら、そこからなかなか這い上がれない、増してや貧困層の有色人種ならなおさらでしょう。恐らく、トーニャの時代より、現在はさらに格差が広がっていると思われるし、日本も30年遅れで後を追っているように思います。貧しい環境から、あるいはいったん職業についた後、苦学して東大へ進学という話、私の学生時代には寡聞とはいえ聞きましたが、今はほぼ絶滅してるのでは?

  採点競技であるフィギュアスケートには、しばしばジャッジの採点に偏りがあるとは言われていますが、この映画では、はっきりド庶民のトーニャはアメリカスケート連盟が好むスケーターではないと言わせています。これもトーニャとジャッジの一人の会話のパートなので、真実は分かりませんが、作品の鍵として使えるネタであると言う事は、真実味を感じさせる話なんだなと思わざるを得ません(フィギュアスケート関係のサイトを散歩すると、特定選手のファンによる、他の選手の点数爆上げ説などの陰謀論をいくつも見かけます(~_~;))。

  靴ひもの不具合では織田さんを思い出したのはもちろんですが、KOZUKAブレードの事も思い出してしまいました。選手はみんな靴関係では苦労しているんですよね。その意味では小塚さんは、本当にフィギュアスケートに貢献していると思います。

 で、その面から思うと、ブレードでタバコを踏みつけるなんて・・・やっぱりありえな〜いし、今の感覚で言うと、トップ選手の、しかも、出場待ちの時間での喫煙も医学的見地から見ても、マナー的にもあり得ないですね。というところで時代を感じたりもしました。

 エンドロールに当時の関係者のリアル映像と、トーニャのトリプルアクセルを含む演技映像が出てきて感慨深いものがありました。

 本当の本当は分からないけれど、鬼母ものがたりとも言えるし、格差社会を転写しているともいえる作品。泥まみれになりながら、それでもめげないパワフルなトーニャ、それはないよねと思うところもあったけれど、ぐいぐい引き付けられました。

 頑張って見に行って良かった!

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