昨今、映画を見る機会がめっきり減っていますが、地元紙の紹介を見て「ジョジョ・ラビット」を見ました。

 ヒトラー政権末期、空想上の友だち、アドルフ・ヒトラーと対話しながら、ヒトラー・ユーゲントにあこがれ、周囲から聞かされるがままにユダヤ人に対する憎悪を抱きつつ暮らすジョジョ少年を主人公にした作品です。

  蛇足ですが、冒頭の画面を見て、ヒトラー・ユーゲントが来日した時、母たちは熱狂的に迎えたという話を思い出しました。

  おしゃれな服装をはじめとする贅沢は敵、男女が一緒にいたらけしからんという10代の少女たちには暗過ぎる世相の中、いわば政府お墨付きで美少年揃いの少年団に歓声をあげられるからこその熱狂だったのだと思います。
  想像上のヒトラーはお調子ものだし、ハイルヒトラーと熱狂する大衆の姿の当時の実写フィルムのBGMにはビートルズの抱きしめたいが流れたり、ユーモラスに描かれている部分もあるものの、戦闘場面やレジスタンス戦士に対する見せしめに街角につるされた縊死体の場面など、ドキッとする画面もあります。

 監督にして、空想上のヒトラーを演じるタイカ・ワイティさんは40代半ば。この年齢だと(いや、日本の場合、私の年齢でもかも)レジスタンスのことを知っている人は少数派かも知れませんが、独裁下のドイツでも、ユダヤ人撲滅をはじめとする体制がおかしいと異を唱える人たちはいて、その一人がジョジョの母、チャーミングなロージー。ジョジョの父親はイタリアで戦っているとかで不在ですが、周囲の悪ガキどもはジョジョの父親は逃亡したといじめのネタにします。

 恐ろしい化け物を妄想していたのに母がかくまっていたユダヤ人少女と出会って、考え方が少しずつ変わっていくジョジョ。

 ロージーや作品では名前しか登場しないジョジョの父のように「出来ることをする」ために命がけになる人たちがいる一方で、ジョジョたち少年を立派な兵士として育成するのが役目な筈のクレンツェンドルフ大尉のように、体制の中にいながら、密かに疑問を抱いている人もいます。

 酷薄なゲシュタポがいきなり家宅捜索に訪れた時に、壁の後ろの秘密の場所から出てきて、生き延びるためには忌まわしいハイル・ヒットラーを唱えることすら厭わず堂々と受け答えするユダヤ人少女のエルサに対して、彼女の正体がわかりながら、クレンツェンドルフ大尉は見逃すのです。

 あとから彼が何でその場に居合わせたかを想像したら、とても切なくなりましたが・・・。

 レジスタンス戦士として戦うことは出来なくても、人としての良心を持ち合わせていたクレンツェンドルフ大尉の姿を見て、ふと、昔母に聞いたことを思い出しました。


 私の子どもの頃のかかりつけ医の先生は軍医上がりの小児科医でした。今はうわまち病院となった横須賀市にあった国立病院の小児科で、お名前は田口ヤスヘイ先生でした(保平という字だったという記憶がありますが、間違いかも知れません)。

 この先生がある日母に語られた話というのが、また聞きな上に、歳月を経ているのであいまいになっているところもありますが、以下の通りです。

 インドシナ(多分、今のベトナムとかタイあたり)での戦闘中、現地のゲリラ掃討のために、ある村に入った先生の隊。村落での家探しをしていて、ベッドの中に手を突っ込んだら、ぬくもりと乳飲み子の匂いが濃く残っていたそうです。 医者である先生にはそのぬくもり具合から、住民は遠くには行けていない、もしかするとまだ家のどこかで息をひそめているかも知れないと分かったそうですが、黙っていたそうです。

 医者である先生は、幼子を連れた住民を抹殺など出来ないという良心があったのだろうと、母が語っていました。

 その住民が本当にゲリラであろうと、そうでなかろうと、疑わしきはで抹殺するのが流儀と分かっていた先生は実際の状況を語らなかったのです。あるいは「いない」と口に出して言われたという話だったかも知れません。

 それを語ってくれた母もとうにいないし、穏やかで優しい初老の紳士だった先生(当時の50歳くらいと言えば、立派なおじいちゃんという感じで、細面でしわの多いお顔ながら髪は黒々とされていました。お声だけはしっかり覚えています)もずいぶん前に鬼籍に入られたことは母が元気なころに聞いています。

 殺伐とした軍隊でも、人としての良心に基づき小さな抵抗をした人が身近にいたのを思い出しました。

 そういえば、亡くなった父も兵学校で、何かの折に(確か敵を壊滅とか殲滅と言われた時だったかと)「敵にも家族があります」という正論をポロっと言ってしまったことがあるとか。教官はそれを聞いて烈火のごとく怒るというようなこともなく冷静だったそうです(父は言っていました「陸軍だったら、重営倉入りだったろう」と)。鬼畜米英と言いながらも、本当のことを分かっている人は分かっていた、ただ、それを大っぴらに口にはできなくなるのが軍国主義や独裁国家なのですね。

 出来ることをするだけ・・・

 
 私はロージーのように、命を賭して良心に従うことは出来ないと思いますし、体制の端にいながら、最後にはジョジョを守ってくれたクレンツェンドルフ大尉のようにもなれないと思いますが、小さな事でも出来ることをしていけたらと思いました。

 そうそう、ジョジョの2番目の親友(1番目がアドルフ・ヒトラーとジョジョは言っておりました)のヨーキーの存在が和めます。少年活劇系で一人はいそうな太めのこっけい感のある役柄ですが、時代に翻弄されています。でも、何を知ってもジョジョの本質を見失わず、友だちでいつづける彼も良心に従っているんだなぁと思わされます。

 
 この作品、いわゆる大ヒットを狙う興行系ではないので、最寄りの映画館での上映時間帯が朝いちばんと夜にかかるという2本しかなくて、家人全員の夕食が不要という好条件があって、思い切って見に行かれましたが、行ってよかったです。

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