長男が「くちづけ見た?」とメールをよこしたので、「見たかったけど、見そびれた」と返信したら、「チケット送る」との事で、昨日受け取りました。

 どうしてそういうメールをよこしたのか、映画のオープニングを見て分かりました。勤め先が関わってるんですね〜、ですから、お近くで見られる方はぜひご覧くださいませ。


・・・って親ばかで言ってるだけじゃないんですよ。

 この映画、問題提起をしている映画でして、おかしくて、切なくて、哀しいです。知的障碍を持つ子どもを持つ親が自分亡き後を思うという内容においては、中国映画の「海洋天堂」と似ていますが、結末はかなり違います。

 あさイチの金曜日のプレミアムトークで父親役を演じた竹中直人さんが、減量もされた旨、述べておられましたが、登場当初にあった彼らしいコミカルな味わいは、彼が重篤な病を得て、知的障碍を持つ娘の将来を案じるようになると姿を消して、実にシリアスであります。
 大河ドラマの「八重の桜」では八重の親友を演じている貫地谷しほりさん(意外や映画は初主演なんだとか)が、過去に性的被害にあったトラウマで男性恐怖に陥っている娘、まこちゃんを純真に演じ、一方で、同じ「八重の桜」で維新方の知恵者として登場した真木和泉訳を演じた嶋田久作さんは、カメラを片手に何でも事件にしたがり、「子どもだな」とぼそっとつぶやく知的障碍者の役を演じているなど、役者さんって、本当に達者だなと思います。

 トラウマから時にパニックになるまこちゃんが、善良な医師、国村一家が運営している知的障碍者のためのグループホーム「ひまわり荘」に仲間入りするために、かつて人気漫画家、今はタウン誌のイラストで細々生活しているペンネーム、愛情いっぽんと共にやってきます。

 いっぽんはスタッフとしてひまわり荘に住み込みで働くつもりですが、異様にテンションの高い35歳の知的障碍、うーやんの大好きな妹、ともちゃんの婚約者と勘違いされ、到着早々から、とんでもない歓迎を受けるというアクシデントはありましたが、入所者とすぐに打ち解け、いっぽん先生と呼ばれ慕われます。

 善良な医師夫婦、利用者さんのためには熱くなり、時に手を出しながらも世話を焼く高校生の娘はるか(朝ドラの北鉄のゆいちゃんがここにも登場!)に比べると、主にまかない方担当のスタッフ袴田さんは毒舌で、隙を見てはビールに手を出す難あり人物。

 男性恐怖のはずのまこちゃんは、うーやんには警戒心を抱かず、和やかな日々を過ごすことに・・・・

 とほっこり系で話が進めばよいのですが、いっぽん先生は体調を崩し、ひそかに通院。本来ならば、ここで医師夫婦に相談したらよいのですが、グループホームの運営がいかに厳しいかを漏らされてしまったこともあって、助けて!と言えない心境になったようです。

 何かと利用者さんがおこすトラブルを、何とか丸く治めようとしてくれる出入りの交番のおまわりさん、いっぽん先生の再起を信じ、自らは東京の出版社から求められる事を夢見るタウン誌編集者など、ひまわり荘のユニークすぎる面々に理解を寄せる人たちもいるのですが、世間の目の代表として、本当は親しくないのに、福祉のレポートをかけば点数がもらえるとやってきたはるかの友だち、南が登場。

 ずけずけ気持ち悪いなど、偏見に満ちた言葉を述べ、はるかを激怒させ、うーやんたちからはその体型を揶揄され、追い出されてしまいますが、うーやんたちが南を「悪党」と認定したことが後にトラブルを招きます。

 普段は冷静だと編集者が評しているいっぽん先生が、おまわりさんが知的障碍者の累犯が多いと語ると、激怒したあたりから、知的障碍者を取り巻く状況の厳しさ、特に親亡き後の寄る辺なさが漂い始めます。自分の余命がもはや長くはないと知ったいっぽんの気持ちはドンドン追い詰められて行くのです。


 これ以上語るとネタばれですから、やめときますけれど、途中から泣けました。

 おまわりさんが語った言葉の詳細は山本譲司さんの「獄窓記」や「累犯障害者」がもとになっているのかなぁと思いますが、近年の財政的逼迫の中、特に人数的に少ない知的障碍者に対しての福祉が切り捨てられがちなのは、相次いで市や県が運営していた福祉系ショップが閉鎖されたのを近隣で見て、強く感じます。

 娘のことだけを強く思ういっぽん先生や、兄の存在から結婚をあきらめて、兄のすべてを引き受けようとするともちゃんの姿など、当事者や関係者には切ない話ですが、身近に知的障碍を持つ人と接する機会がない方にこそ見ていただきたい映画だと思います(久石譲さんが音楽担当されている海洋天堂もぜひ!)。



 映画の中ではふてぶてしく描かれてはいるけれど、世間にはこういう見方をする人も多いという象徴的に描かれている南ちゃんを完全に脱してとは言いませんけれど、もっとあたたかな目が増えるようにと願います。

 南ちゃんと違った意味でふてぶてしいというか、毒舌で、甘いやさしい事を言わない袴田さんの存在が気になりました。エンディングでは彼女があたたかく優しい表情でスライドショーに見入っていましたけれど、きっと、彼女は現実の厳しさに余計な期待を抱くのをやめようと思った人なんだろうなぁ・・・なんて思いました(本当は何か思うところがあるのだろうけれど、一見してがさつな女性を岡本麗さんが好演していました)。


 今日の映画を見て、一番強く思ったことは、助けてと声をあげる事の大切さ。周囲が気付いてあげられればそれに越したことはないのですけれど、気付いて声を掛けても、拒まれる方もいらっしゃいます。遠慮、プライド、いろいろあるのでしょうけれど、声をあげれば、誰かしら何かしら方策があると思うのです。


・・・・という訳で、親バカ抜きにお勧めします。この映画。





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