老眼が進み、根気も続かなくなり、最近では読書と言えば、かつてのそれとはかなり違う大きめな文字で印刷された新書や、手軽に読める実用書ばかりになりました。

  小説を手に取り、時の経つのも忘れドドドドと言う感じで読みふけることはほとんどなくなっていました。
 昨日から読み始めた『熱帯』は久しぶりにドドド!と言う感じで読みました。

  冒頭に作者の森見登美彦さんが国会図書館勤務時の同僚と久しぶりに会う場面で、彼が自分のことをモリミンと呼んでいたと書かれていたことでグイッーと、人ごとがじゃなくなった感じです。

  この作品よりずいぶん前、多分、鴨川のタヌキ一族郎党の物語の頃だったと思いますが、市民図書の当番だったご近所一と言っていいくらい顔が広くて、すごく出来るけど、全然えらぶらない知人と雑談した時に『うちの息子は森見登美彦さんのこと、モリミンって呼んでたのよね』と、かつて息子さんと同僚だったと言う作家についてコメントしたのです。

  その頃は万城目学さん、森見登美彦さんというイカキョーコンビの作品は夢中で、え〜、いいなぁと思ったので忘れられない雑談でした。

  ひぇー、作中のご友人はさては彼女の息子さんか?

  と言う入り口があったもんだから、あとはドアを開けてグイグイ入り込んだ感じです。

  一度ドアを開けてしまうと、森見さんお得意のグルグルワールドの多重構造、小説のマトリョーシカか寄木細工か、という複雑な仕組みを読み解きたくて、手放せなくなってしまいました。

  おーい、片づけは?掃除は?

  と、気が咎める気持ちも湧きましたが、久しぶりの物語ハイを流してなるものか!

  ネタバレになるので筋は書きませんが、千夜一夜物語が主要モチーフで、前半は現実、後半が不思議ワールド(妄想と呼ぶ人もいるかも?)。

  書き出しは東京から始めるのですが、途中から舞台は京都に移りまして、恥ずかしながら、空襲で焼けなかった奥深い陰影を感じさせる東京では数少ない地域のことはほとんど知らないのに、叡電沿いの風景は目に浮かんでしまい、臨場感があるのです。

  主要な登場人物のひとり、優雅なマダムの千夜さんの東京の住まいの辺りは具体的な地名があってもさっぱり風景が浮かばないのに、千夜さんの実家、吉田の風景、大文字焼きの大の字が見えるなんて描写には、かつて尋ねた茂庵の窓からの景色を重ねてしまいます。

  不思議な入れ子ワールドにひきこまれつつも自分はどれだけ京都に惹かれてるんだと呆れもしました。

  家事は最低限(いつもと変わらんかf^_^;)、干からびないくらいの頻度で水分補給して、夕食後にはめでたく読了しました。

熱帯 (文春文庫)
森見 登美彦
2021-09-01


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